レポート

第1回 30年10月19日開催

「AIの活かし方・人の役割」

落合 陽一 (おちあい・よういち)
筑波大学学長補佐・准教授

神戸の人口はおよそ153万人。現在、国の人口減少と同様、神戸においても少子高齢化と人口減少が続いている。こういった状況の中、神戸市はクリエイティブ産業をより育成していくために、様々な調査や分析を行っているが、その過程で大きな課題が浮き彫りとなった。それは、神戸市内におけるクリエイティブ産業の需要がおよそ1兆700億円あるのに対し、市内で供給されているのはおよそ7500億円である事実。つまり、クリエイティブ産業に関連した資金が3500億円分が大阪や東京、福岡などの地方都市に流出してしまっているのだ。

このような人口減少と産業構造をどう捉えていくか、今後どのようなイノベーションが必要になるのかを、自身のビジョンを軸に、落合陽一氏に語っていただいた。

アートと研究とビジネスを自由に渡り歩く

落合氏はメディアアーティストであり、筑波大学准教授・学長補佐、デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表を務めながら、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社CEO、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授など多くの肩書きを持つ。
フルタイムの准教授として教壇に立ち、自身が代表取締役を務める会社を経営し、同時にメディアアーティストとして最先端技術を駆使した魔法のような作品を発表し続けている。

最近の作品では、TDKの最先端技術や製品を使って新しいアートを制作するプロジェクトで、アンディ・ウォーホルからインスピレーションを得た「Silver Floats」を制作。以前には、暗室の中で点滅する単光源でシャボン膜を照らすことで生命的な光の動きを見せる「モナドロジー」や、廃校の校庭に超指向性スピーカーと超音波による空気の振動を使って人の気配を作り出す「幽体の囁き」などのアートインスタレーションを数多く発表してきた。「そういうことを何でするかっていうと、裏にはやっぱり研究があるんです。研究開発をしながら一緒にビジネスを構築するみたいなことをうちの会社でやっています。そのバランスが僕の中ではちょうどいい」と落合氏は語り、その理由として、「つまり、リサーチとして研究できそうなものは自分のデジタルネイチャーという研究室でやっていて、逆にテックとして、属人性を離れて僕以外にも使えそうな物っていっぱいあるわけじゃないですか。物が自由に浮く技術とか、そういうものは会社で特許化して持っておき、研究開発を進めていきます。逆に言うと、クリエイターとして、自分が何かつくりたいものがあったときに、自分でできるクリエイティブの部分と、例えば会社でつくったテックを使おうかとか、新しくリサーチしたものを使おうかとか、そういった感じで回しながらやっています」と説明した。

また、自分自身が得意なことが3つあると落合氏は言う。難易度の高い学会に論文を通すこと。自分が格好いいと感じるアートを作ること。計算やプログラムをすること。これらを駆使することで、自分自身が心地よく感じるアーティスティックな感性と、これは世の中に必要なテクノロジーだと感じる社会への思いの間を自由に行き来しているのだ。

テクノロジーでイノベーションしなければ絶対に「やばい」

この日の前日、落合氏の友人であり、モデルとして活躍しながら自身が立ち上げたブランド「ラウタシー」でデザイナーも務める鈴木えみ氏とファッションショーを開催していたという。ランウェイではなくインスタレーションによる展示を企画し、映像パネルと照明しかないような空間で、服に近寄ってもらって、物を見るファッションショーを行った。その裏では同時進行で、東京都の官民会議に出席し、都庁で小池都知事と臨海部でどのようなことができるのかを考えて、ビジョン作成を行っていたのである。

なぜこのような多くのことに興味を持ち、様々なエリアを渡り歩くのか。その理由は、作品をつくったり、企画を動かしたり、自由にしたい環境を自分でつくっていかなければ、待っていて与えられるだけでは、いいことがない。「衰退しつつある日本では明らかなんですよ。例えば研究費なんて増えないですよね、だって、GDPが増えてないのに大学教員の研究費がふえるかって言ったら、自分で稼ぎに行ってくれよという感じなわけです、僕からすればね」

落合氏は、自分ができることでお金を稼ぎに行くことは得意だと言う。クライアントの問題を解決するための、好きで得意なことはずっとやり続けたい。しかし、そういったことだけで終わってしまうと、それはクライアントからお金をもらってやるだけになる。だから、自分で何かをつくっていかなければならないのである。
東京都だけでなく、福岡市やつくば市の市長など、二週間に一度ぐらい政治家の人と対談している。それは、どのようにして文化自体を官民だけでなくテクノロジーと合わせてつくっていくかに非常に興味があったからだと言う。

さらに、2049年になるまでの30年でどのような手を打つかが、これからの日本が衰退していくかどうかの肝になると、落合氏は警鐘を鳴らす。人口減少の中で、いかに労働力を確保していくかを本気で考えなければならない。この間に日本が抱えるこの問題を解決していかなければ、悲観的な予測では人口が4000万人減り、楽観的な予測でも2000万人減ることは統計を見ても明らかだと語る。

2025年には団塊の世代が後期高齢者に入る年であり、使用される医療機器が増え、医療費が爆発的に増えることが大きな課題になっている。また、2060年には人口が4000万人減る上に5人に2人が65歳以上になる試算が出ており、国民の20%が認知症になるとも言われている。「後期高齢者がふえるとやばいんですよ。今、我々の社会はやばいって言われている以上にやばいんです。何とかしないといけないんだけど、何とかするにはもうテクノロジーしかないなと思っているんですけどね」と、落合氏は現在日本が抱えている危機的状況を説く。

「自分の専門を使って何ができるのかを考えると、人口が今後増えないならば、そこはテクノロジーでカバーするというのが一つアイデアですね。ここにAIをぶち込む。そしてテックを人にくっつける。そして若い人たちの労働力をコンピューターでアシストするというところをまずやらなければならない」

例えば、介護職において介護師たちが車いすを押している時間は労働時間のうち15%ほど。これを遠隔操作や自動運転にすることで、費やす時間や賃金が大きく変わるという。その他にも透過型ミラーデバイスを利用した網膜投影、補聴器や義足などについて、科学技術振興機構(JST)のCRESTに採択されたプロジェクトで、どのようにそれぞれのダイバーシティに対応していくかを研究している。

神戸らしいクリエイティブがきっとある

このようなテクノロジーをどのようにクリエイティブと兼ねていくかが、最近興味を持って手掛けていることだという。例えば、耳で聴かない音楽会。振動や発光するデバイスを通して体全身で音楽を感じ取り、聴覚障害のあるなしに関わらず、同じ空間で音楽を共に楽しむ音楽会。これは、日本フィルハーモニー交響楽団と共に進めたられたプロジェクトである。さらには、オーケストラの中のひとつのパートとして、指揮に従って映像が演奏されるように、譜面を忠実にビジュアルデザインする試みも行った。「アート、エンジニアリング、デザイン、サイエンスっていうのは僕の中での四つの柱で、それは互いに違うことだけど、互いに違うと認識しながらやっていくことは、大切なことだと思うわけです」

また、クリエイティブな街づくりに必要なことは、クリエイティブワークができるアーティストたちが社会と密接に関わることで、表現を突き詰めることや、自由にのばすことができる場所や空気だという。東京はクリエイティブであろうがなかろうが、ビジネスが猛烈な速度で回り、デザインや写真や広告など物づくりで必要とされる仕事が多い。京都は東京と逆であり、ビジネスの多様な発生ではなく、伝統産業における工数の多さと人手の少なさから、クリエイティブが必要とされている。神戸には神戸らしいクリエイティブがきっとあると思う、そう落合氏は言い、「クリエイターが暮らしやすいという場所が僕は一番面白いところだと思う」と続けた。

危機感を持ちながらも、魔法のような技術とアーティステイックな表現で参加者に刺激を与えた落合氏に、多くの質問が寄せられた。そのうちのいくつかをご紹介する。

質疑応答

Q

もし、落合さんが神戸市長だったらどのような政策をとられますか?

A

クリエイティブビジネスが発生しない限りは、クリエイティブな雇用は生み出せないので、一件300万円ぐらいの助成金をつけて、民間企業がその助成金を使って自分の施設の中に展示空間をつくって、アーティストを招聘しなさいというような助成金の配り方を僕だったらしますね、多分。
1カ月あけられる会議室やエントランスホールって死ぬほどあったりするじゃないですか。そこに助成金をつけて、物をつくってもらうのは全然悪くないし、気にいったらそのまま買って、イディペンデントで置いてあげるぐらいのことができると、それは若手のクリエイターにとってはすごくうれしいことですよね。そういうような若手に展示空間を与えるようなコストをどうやって払うかが勝負かなと思っています。

Q

農業において、食という観点で本物を守っていくためにはどうしたらいいと思いますか?

A

管理コストの減少じゃないですか。農業機械を入れることによって機械化で減らせるコストっていうのは、ここ60年間で物すごく減少したわけですよ。でも、管理のほうが変わってないんですよね。つまりIT化されて全ての農作管理を一元化のアプリとかで出来るようになっていないんです。トラクターが自動で走るかとか、田んぼが危なくなってないかなどをセンサーで管理されていなくて、それが多分なり手の少ないひとつの理由だと思っています。計上されていない「見えない人件費」がいっぱいあるんです。その管理コストをどうやってITで減らしていくかっていうところをシフトしない限りは、農業のなり手も少ないまま。単純に農作機械が高いとかいう問題よりも、そのマインドコストのほうが高いと思います、僕は。管理コストをどうスマホ1個で解決するかですよね。

Q

街自体にインプットする情報そのものは、どうやって増えたり増やしたりすればよいでしょうか?

A

文化資本って一朝一夕にはなかなか出てこないっていうか、いきなりポンって出てくるものではないので、それは醸成していかないと見るべきものが少なくなるというのは間違いないですね。見るべきものを突然増やす方法で、他国の文化資本を大量に持ってくるっていう手があるのですが、そういうことが厳しければ、人に住んでつくってもらうしかないんじゃないかなと思っています。人に住んでつくってもらうには、やはり雇用と住みやすさのバランスが重要なのかな。
ここのさびた港を通っているときにも思いましたが、何か古いものってほっといても結構見るものになると僕は勝手に思っています。古くある岩肌とかって、やっぱきれいだなと。そういうようなものをなるべく壊さないっていうのは一つの手だと思うんですよね。インスタグラマーが増えれば、文化財みたいなものをしっかり見る習慣っていうのは増えてくるので、そういうようなことを通じながら、何が格好いいか、見るべきものかっていうことを再発掘してみると、何か変わってくるのかなと思います。